この家は、もともとは、カテドラルの僧院の一部であった建物を、ブレイディが
買い取って、個人の家にしました。塔の家と呼ばれるのは、この建物が、天文学
に興味をもっていた科学者のプランカルテ司教が使っていた僧院の塔を含んでい
るからです。
画家で収集家でもあったロバート・ブレイディは、1928年アイオワ州に生ま
れ、シカゴ芸術学院などで学んだのち、世界各地の芸術家や有名人と親交を深め
ながら、生涯の大部分を旅人として過ごしました。イタリアに5年間住んだのち、
1961年、この建物を買い求め、1962年にはクエルナバカに移り、旅行し
ている時以外は、ここに住んで、1986年、ここで亡くなりました。生涯独身
だった彼の墓は、この塔の家の、よく手入れされた中庭の一隅に、愛犬の墓と並
んで作られています。
現在、公開されている14の部屋には、メキシコの画家フリーダ・カーロ、ルフ
ィノ・タマーヨなどの絵や、メキシコ植民地時代の家具、アフリカ、オセアニア、
インド、中近東、日本や中国、そしてメキシコのスペイン侵略以前の素朴な彫刻
や絵画などの収集作品が展示され、またブレイディと親交のあった人たちの写真
などが、彼が住んでいた頃のまま、部屋を飾っています。その数は、1300と
言われていますが、どれも彼の才能や、その風変わりな趣味嗜好を物語っていて、
彼の人となりが偲ばれます。
ですから、彼の収集作品は、博物館の展示品として、勿論必見なのですが、それ
よりも、この家の一番の見所は、彼が住んでいた、この家そのものです。居間や
寝室の壁やベッド・カバーの色、様々な形(犬の形もいくつかある)と色のクッ
ションの数々、壁や床のタイルの色、タペストリーの色、蜂鳥の羽で作ったとい
う絵の色、色、色、色があふれて、もしかしたら、とてつもなく悪趣味かも知れ
ないと思わせながら、古い家具や置物の渋い色とあいまって、とてもしっくりと
落ち着いているのです。
実際に悪趣味と思えるのは、世界中から集めたキリストの十字架を展示している
部屋くらいで、その明るい色合からも、一人の独身中年男(?)が住んでいたに
しては、可愛らしくさえあります。
特に、ふたつある風呂場の黄色や青色のタイルは、湯につかりながら乙女チック
な夢にしたりそうな色合だし、赤で統一された寝室は、ハイになって眠れなくな
りそうです。
また、私が特別に推薦する場所は、ズバリ、台所です。この台所は、小さな宴会
や行事がある時に、今も実際に使われており、壁に下げられた鍋や食器の数々、
深くて大きなふたつの洗い場シンク、調味料入れなどなど、その頃も今も、台所
で働くのが楽しみになるような、素敵な場所です。