海外で生活すると一番不安なのが病気だといいます。それは、私には、とても不思
議なのですが、多くの日本人が、日本の医療技術が絶対的に一番で、他の国は信用
できないと思っているからです。しかし、必ずしもそうではありません。ちょっと
新聞を読んでも、院内感染、手術ミス、輸血や点滴のミス、最近では患者を取り間
違えるなど、信じられない事件が頻繁に起こっています。その上、医療費の高いこ
とといったら、日本ではおちおち病気にもなっていられません。
東京都心のある有名な私立の病院に入院中の知人を見舞いに行った時、病気よりも
ショックを受けたのは、友人が廊下に寝ていたことでした。カーテンに囲まれたベ
ッドが並んでいるだけ。病室とは言えません。その小さくて騒々しい空間に、イヤ・
ホン付きのテレビが備えられていて、妙に悲しかったのを覚えています。私自身が
入院した時も、大部屋の病室には小さな虫が沢山壁を走っていました。幸いな事に、
信頼できる先生に安心して任せることができ、手術も大成功だったのですが…。
また、医療費が高くなるのも当然。私が入院した時には、手術前、まだ元気いっぱ
いの時から一週間も点滴の管につながれ、手術後も、見舞いの友達と病院内を駆け
回るほどになっても退院できず、1ヶ月ちかくも病院にいたのですから、高くつき
ます。それが、メキシコに来て初めはびっくり、後で納得です。
そこで、メキシコで病気をしたらどうなるか、経験豊富な我が家の例でお話します。
保険に入っていない私たちの注意事項は、どんな病気も早めに対処して、大病にな
る前に治してしまうことです。ですから、ニエベを含む私たち5人家族は、あちこ
ちに我が家御用達の医者を持っています。
まず息子です。彼がメキシコへ来てから骨折をするのは、これが2回目です。一回
目は、日曜日だったので、近くの救急病院に運びました。当直の先生の指示で、レ
ントゲンを取り、折れているところを見極めます。これまた先生の指示で、病院内
の薬局へ行って包帯を買ってくると、それで両肩を横8の字にぐるぐる巻きにして
終わり。添え木もなにもしないので、心配でしたが、回復は順調でした。
今回は、休み時間中に校庭で起きた事故だったので、学校の保健室の先生と学年担
任の先生が、赤十字病院に運んでくれました。レントゲン撮影をして、骨折が分か
ると、近くに診療所を持つ外傷の専門医が呼ばれて、駆けつけてくれました。
赤十字病院から車で3分のところに診療所を持つドクトル・ルアセスは、ドクター・
キルデアやベン・ケーシー(ちょっと古いでしょうか?)よりも若くてスマート、
医者にしてはハンサム過ぎて(お医者さんたち、失礼!!)、信頼していいものか
わからなくなるほどです。余談ですが、我が家で関わった病院では、女医さんが多
く、彼女たちは、例外なく超美人です。
さて、このドクトル・ルアセスが、レントゲン写真に写ったポッキリと折れ曲がっ
ている骨を指差して、私達に聞きました。「伸ばしますか?それとも、このままに
しておきますか?」ドクトルに言わせると、もうすぐ13歳になる息子は成長期真
っ最中なので、このままにしておいても、そのうち骨も成長して元のようになるの
だそうです。しかし、折れたところが突き出ている鎖骨を見るのもツライものがあ
ります。伸ばした方がいいですよね? そのままにしておいても良かったのかな?
と、思ったのは、息子の悲鳴を聞いた後でした。
前回と同じ、包帯でぐりぐり巻きにして出来上がり。1週間後にドクトルの診療所
に行って診てもらうと、順調に回復していました。この間、かかった費用は、レン
トゲン2回分の実費190ペソ(レントゲン写真は持ち帰ります)、注射代、包帯や
テープ、痛み止めの薬代(これらは全部、薬局に直接支払う)が280ペソ、赤十字
病院の施設使用料30ぺソ、そしてドクトルへの診察代400ペソ、合計900ペ
ソでした。再診の場合は費用がかからないので、これで全部。骨折でも、日本円で
一万円余りで賄えます。因みに、今回は校内での怪我なので、学校が全て保険で支
払ってくれます。
夫のかずさんが中耳炎の手術をした時にも、病院は施設を使わせてくれるだけで、
実際に手術をしてくれたのは、向かいに診療所を持つドクトル・メレーレスでした。
メレーレス先生は、耳鼻科ではなく、内耳科、つまり、切った貼ったの鼓膜の数が
約1000枚という、超ベテランの鼓膜の専門医です。
まず先生が病院に手術の日を予約してくれます。当日の朝、病院の受け付けに行く
と、部屋のリストを見せてくれます。もちろん全部個室ですが、ランクにより値段
が異なります。丁度、ホテルにチェックインするように、ツインの部屋を予約しま
した。当然の如く、バス・トイレ付きです。
午前中にチェックイン、陽気な看護婦さんたちが次々と挨拶をしに来て冗談を言い、
そのついでに、血圧を測ったりしていると、やがて手術の時間が来て、運ばれて行
きました。私は、病院内にあるカフェで昼食をして待ちます。やがて、頭を包帯で
グリグリ巻きの患者が戻ってきて、麻酔でぼんやりしたまま一夜が明けると、なん
と翌日はチェックアウト、もとい、退院です。
出産などでも、普通ならその日のうち、帝王切開などでも翌日か3日目には退院と
いいますから、あっさりしたものです。これは、欧米一般の傾向のようですが、皆
さんの国ではどうでしょうか?
さて、我が家では、かずさんが会社を辞めてフリーになってから保険というものに
加入していません。日本で入っていた保険もほとんど全部解約し、メキシコでは自
動車保険にも入っていません。これは、もちろん、掛け金がもったいないからから
ですが、ここでは、医療費も安く、不安なく過ごしています。メキシコ人も、聞い
てみると、保険に入っている人はあまりいません。
その外、獣医(ニエベの不妊手術など)、歯科医(マギー先生の命令により、家族
全員が半年毎に定期検査を受ける)、眼科医(コンタクト・レンズをしている私の
問題の多い目)、小児科(子供たちがお腹をこわしたら、親の為の処方箋もただで
書いてくれる美人のピム先生)、痛み専門のドクトル・サンタナ(夫のテニス肘や、
私の40肩を注射一発で治してくれた)等など、どの先生も若くてテキパキ、その
くせ、1人30分はたっぷり時間を割いて、裏も表もひっくり返して診てくれるか
ら、日本のように、半日待って3分診療なんて、もう信じられない。
クエルナバカという小さな街に、施設の整のった病院がたくさんあります。また、
多様な専門医が開業する診療所を集めたビルがいくつもあって、どんな病気になっ
ても安心。私達が、保険にも入らず、骨折にも呑気にしていられるのは、医療施設
の整ったこの街に住んでいるからです。