「クエルナバカの碧い空」第32号
#4 トピックス ― 6年に一度の大統領就任式
メキシコ人は、ちょっと複雑な感情を交えて、大統領の任期6年のことを SEXENIO 
と呼びます。大統領就任式は12月1日にありますが、そうでなくとも、毎年、年の
暮には、為替の変動など経済危機が噂され、株式市場は不気味に静まり、ペソをドル
に替える人、貯金を降ろして海外へ持ち出す人と、警戒心が広がります。
これが新大統領 ビセンテ・フォックス氏 ビバ、メヒコ! 
(クリックで拡大)
例年ならこんな不安を感じて迎える大統領就任式、今年は、ちょっと異なりました。
政党政治が始まって以来初のPAN(PARTIDO ACCION NACIONAL)の大統領を迎える
のです。国民が過大に期待するのも無理ありません。6年に一度の国民の祝日とな
ったこの日、実は、朝8時ころこの日の騒ぎの前触れであるかのように、ちょっと
した地震がありました。その直後に、新大統領VICENTE FOX QUESADA氏は、大変な
一日のスケジュールを開始しました。

8:10	SISMO 太平洋岸で地震、震度 5.5 
8:40 	COMUNION EN LA BASILICA DE GUADALUPE グアダルーペ寺院にてミサ
9:30	DESAYUNO EN TEPITO CON LOS NINOS DE LA CALLE
	テピート地区にて、浮浪少年達と朝食と演説
10:30	近くの家でタキシードに着替え
11:00	PALACIO LEGISLATIVO DE SAN LAZARO 立法府宮殿
	TOMA DE PROTESTA COMO PRESIDENTE DE LA REPUBLICA MEXICANA
	就任式 - 前大統領より大統領国旗を受取ったのち、約1時間半の所信演説
12:30	AUDITORIO NACIONAL−CODIGO DE ETICA
	国立講堂 - 大統領としての心構えを述べた「倫理に関する演説」
14:00	LAS FUERZAS ARMADAS EN CAMPO MILITAR
	軍事基地 - 500人の兵士たちの前で演説
15:00	PALACIO NACIONAL 国立宮殿で1568人の政治家、友人、家族たちとの昼食会
18:30	SALON EMBAJADORES AL BALCON CENTRAL DE PALACIO NACIONAL
	国立宮殿の大使の間の中央バルコニーから、演説
21:15	CENA EN EL CASTILLO DE CHAPULTEPEC 
	チャプルテペック城での晩餐会と感謝の演説

この間にオープンカーでのパレードもあり、TOMA DE POSICIONと呼ばれる就任式
一日でした。

どこでも演説が欠かせませんが、メモがあってもちらちらと見るだけ、あるいは全
然メモ無しで、堅苦しい演説も、時に冗談を交え、フォックス独特の口が裂けてし
まったかと思うような大きなニヤリ笑い、ファースト・レディの役割を果たす長女
ほか3人の子供達を抱きしめたり、ユーモアたっぷりのアドリブに、時折会場から
笑いがおきます。教育問題、政治の腐敗や麻薬問題、貧富の差の問題、チアパスの
紛争の解決などに尽力するという所信演説は、表情たっぷりで説得力があり、それ
だけに期待も大きくなります。

フォックス大統領は、PAN党初の大統領らしく、史上初の行事も多くありました。

フォックスは自分がカトリックでグアダルーペを信仰していることを隠さず、グア
ダルーペの旗を選挙運動にまで持ち出して非難されたこともあるほどですが、それ
にしても就任式の朝に、教会を訪れ洗礼を受けた大統領は、勿論始めてです。政治
と宗教の分離に著しく反しているのですが、もともと司教の発言力が強い国柄、教
会にも約1万人の人が押し寄せ、一般的にも好意的に見られているようです。

就任式の前に浮浪少年たちと朝食をとるというのも絶対初めてのことでしょう。フ
ォックスは以前から少年問題、教育問題、麻薬などの問題には力を入れており、大
統領になっても彼等を忘れないことを誓って、この日の朝食となりました。TEPITO
地区の道路に80個の長テーブルが並べられ、4匹の羊の肉を使ったバルバコア、
35キロのトルティージャ、150リットルのスープ、1200個のタマーレス、
50リットルのアトーレという飲み物が近隣の人によって用意され、集まった浮浪
少年、障害者たち、近所の人々と朝食をとりました。ジーンズに綿シャツというリ
ラックスした格好のフォックス氏が、少年に飲み物を注ぐ風景も見られました。た
だし、集まった浮浪少年の中には、フォックスが去ったあと、ふたたび路地にたむ
ろして麻薬を吸い出す者もいて、現実は厳しい。

朝食後、近所の人の家を借りて、ジーンズから、就任式のためにタキシードに着替
えるというのも珍しい。また、移動の際にも、交通を遮断することなく、きちんと
交通規則を守り、また徒歩で行けるところは、民衆にもみくちゃになりながら歩き
ます。だから、前回の大統領選直前に暗殺された候補がいたことを思い出して、冷
や冷やした人もいたでしょう。

夜にはソカロに集まった約10万人の民衆と一緒の祝宴もありました。サッカーの
試合の時のような人々の乗りにも驚きますが、花火や歌手の歌なども聞かれ、その
間、終始ソカロを見下ろすPALACIO NACIONALのベランダから演説をしたり、手を
振ったりしたのですから、全く疲れ知らず、テレビをみているこちらが疲れます。

晩餐会はチャプルテペック公園内のお城で開かれました。かけつけた世界各国から
の来賓に振る舞われたメニューは: ASPIC DE CAMARONES、CREMA DE ALCACHOFAS,
MAGRET DE PATO Y MANZANAS CARAMELIZADAS,そして、メキシコ・ワインの MONTE 
XANICでした。ま、食べてみなきゃ、なんだかわからないものばかりですが・・・。

さて数多くの来賓の中でも、メキシコ空港に降り立った瞬間から注目を浴びたのが、
キューバのFIDEL CASTROです。どこへ行ってももみくちゃで、他の中南米諸国の
大統領たちに比べて格段の人気でした。また、ヨーロッパや中近東から来た招待客
のなかでも、スペインのアストゥリアスのブルボン家のフィリップ王子は、甘いマ
スクと上品な身のこなしで女性達のため息の的。もちろん、アメリカのマデリン・
オルブライト女史のにこやかな姿も見えました。

ところで、発表されたフォックス内閣のメンバーによると、女性が8人だけなのは、
ちょっとがっかりですが、しかし全員が実績のある超実務家ばかり。例えば、大統
領選挙ではライバルでもあり、障害者でもある民主社会党党首を反差別のための市
民協議会に指名したり、前メキシコ市の治安を担当していた人を国の治安担当に抜
擢したり、学者や銀行員、会社経営者など、政党に拘らず、実際に即戦力となる人
ばかりのようです。

さて、こうして歴史的就任式の一日は、ソカロでデモ隊の衝突があったりしたにも
かかわらず無事終りました。治安、教育、チアパス、汚職、そして経済の問題など、
世論調査によると、フォックスなら公約を守ってくれると思う人は70%を超えて
おり、国民の期待の高さが示されています。

先日、伯爵夫人マリアさんの誕生日パーティがあり、私達も招待されて食事を楽し
みました。その時、集まったメンバーを見てペドロは、「このテーブルでは、メキシ
コ人は僕だけだ」と溜め息をつきました。マリアさんはイタリア人だし、一緒にい
たアナとビットリオの夫婦もイタリア人、エリザベスはドイツ人、クロードはフラ
ンス人、ケンはアメリカ人。もう30年以上もメキシコに住んで永住権を持ってい
る人たちばかりですが、選挙権はありません。それでも就任式があったばかりのこ
の日の話題は、やっぱり政治で。みんな、自国のことのように、きっと政治が良く
なると、熱く語るのでした。

そんな期待に応えるように、早くも新大蔵大臣が、政府の役人の中に、一度もオフ
ィスに顔を出した事も勿論働いている姿も見せた事のない人間が多数給料を受取っ
ていたこと、また、免許証や登録税などを着服しているものが多く、国に入るべき
金が個人の所有となっていることなど、具体的な人数や金額を挙げて公表しました。
悪い事をしても罰せられないIMPUNIDAD が、この国の汚職の原因になっており、こ
れを糾すことが、新政権の急務です。

また、長年、何の進展もなかったチアパスの紛争問題でも、就任の翌週には、すで
に会談のきっかけがついて行動が起こされ、今までのPRIの政権の間には期待の
しようもなかった新展開に、益々国民の期待が広がっています。

もっとも、国会自体はまだPRIの議員が多く、様々な議題がそのまますんなり通
過することは難しいでしょうし、消費税が現在の15%から18%に上がるという
噂もありますが、それでも中南米諸国やアメリカの指示も受けて、政治的には安定
することは確かでしょう。

エルネスト・セディージョ大統領の時代に、早いスピードで回復しつつある経済も
新大統領就任後も安定しており、アメリカの大統領が決まらないために引きずられ
て下落気味の株価も何とか持ちこたえているし、為替相場も落ち着いていて、外国
人である私達にとっても、一安心です。

さて、HP29号でお伝えした、前々大統領サリナスの本ですが、あっという間に
書店から姿を消しました。また、旧大統領となったエルネスト・セディージョ氏も、
大統領最後の日々を上機嫌で過ごし、就任式直後にプエルタ・バジャルタの海岸へ
去りました。子供達の学校が正月休みに入る20日からは、ハワイで家族水入らず
の休暇をとるそうですから、日本の政治家のように、辞めた後も亡霊のように舞台
上を歩き回るということはないようです。

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バックナンバー
#2 メキシコの住宅事情
#3 警官への賄賂
#4 音楽友の会 10周年コンサート裏話
#5 ノーチェ ブエナ物語
#5 クリスマス行事
#6 年末年始の休みとグアダラハラ家族旅行
#6 トレス レイエス
#7 ビザの種類と更新
#8 モナルカ蝶の聖域ツアー
#9 ガールスカウト奈良支部
#10 チャイコフスキーのバレー「白鳥の湖」
#11 メキシコ縦断アメリカ転々旅行
#12 メキシコの飲み物
#13 テキーラ
#14 花が咲いて実がなった(街で見る果物)
#15 アステカ・カレンダリオの謎
#16 2000年・年越し祭り
#17 9月16日 独立記念日
#18 特別ゲスト、中村さつきさん
#19 DIA DE MUERTOS 死者の日
#20 葛飾諏訪太鼓メキシコ滞在記 (リーダー水澤啓一 記)
#21クエルナバカの年末年始
#22 メキシコ病院事情
#23 今も懐かし、街頭の物売りたち
#24 養老院YALENTAY慰問コンサート
#25 メキシコの温泉も気持ちいい(*^o^*)
#26 ノパール NOPALで健康に!
#27 メキシコの選挙
#28 ロマンチック・アシエンダ(荘園)街道巡りの散策
#29メキシコ、愛国心のしるし
#30メキシコの結婚式 − 二つの体験談
#31メキシコ原産トウモロコシ MAIZ の秘密


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