では、寿美枝さんから一言:
タイトル:夜毎の火遊び・・メキシコの熱い夜(?)
クエルナバカから帰国して3日。深夜の編集部でこれを書いている今も、ふとメキシ
コの夜の、あの頬が火照る熱い感覚が甦ってくる。いちど覚えたら忘れられない火遊
びの味。また遊びたい・・・・暖炉で。
私が訪れた1月4日から9日の間、クエルナバカは快晴だった。火山の噴火の影響で
このところ珍しく曇っている、と事前に聞いていたが、そんな心配はすべて吹き飛ぶ
青い空!。聞きしにまさる快適な気候だ。
とはいうものの、朝晩は気温が下がる。到着した日の明け方に寒さで目覚めた私は、
朝食後、ホテルに迎えに来て下さったかりさんとかずさんに「夜はけっこう冷えます
ね」と話した。するとかりさんが「あら、じゃ部屋の暖炉を使うといいわね」。
暖炉! その甘い響き。暖炉と大型室内犬、そしてガウン姿にパイプのオヤジ。これ
が昭和の高度経済成長期に少女時代を送った私が想像する『金持ち3種の神器』であ
る。「えっ、あれ、ホントに燃やしていいんですか。嬉しい!」確かにホテルの部屋
には暖炉があった。しかし恥ずかしながら、飾りだと思っていたのだ。かりさんに使
い方を教わり、その晩から三十路女の夜毎の火遊びが始まった。
夜、ごつい薪にうまく火がはいったのを見届けてからバスルームに入った。シャワー
を浴びる私の頭の中は、部屋に戻った時にふわっとくるであろう火の暖かさへの期待
でいっぱい。ところがドアを開けると、部屋は煙でかすんでいた。「やっぱりちょっ
と煙たいものなんだ」と思いつつ暖炉前に設置した椅子に陣取ったが、そのうち目が
しょぼしょぼ、喉も痛み始める。生命の危険を感じ始めた頃、私はテラスへ逃げ出し
た。パジャマ姿で屋根付テラスのソファに寝そべり、軒端の月を眺めていると、天井
に沿ってもうもうと煙が流れていくのが月の光に透かして見える。「メキシコってと
んでもないとこかもしれない……」あの時の偽らざる心境であった。
もともとメキシコに関する知識は皆無。『砂漠に三つ股サボテン、そこに3バカ大将』
のイメージだった。ネコに小判のメキシコ行きといわれても仕方ない。言い訳する気
はないが(ちょっとはあるが)、メキシコロケが決定したのはほんの半月ほど前。今
出ている号のデスクだった私は年末進行も相まって、満足に睡眠もとれない生活を送
っていた。ましてや出張の内容は、クエルナバカの別荘で執筆中のジャーナリスト、
青木冨貴子さんと作家のピート・ハミルさん夫妻の人物撮影で、ロケハンのコーディ
ネートは現地に住む夫妻に青木さんが頼んで下さったという。このさいメキシコの予
習は飛行機の中で読む『地球の歩き方』だけで勘弁してもらおう。そんな気持ちでや
って来た。
メキシコ焼けの肌をポリポリ掻きながらこれを書いてる私は、あの時の自分に鋭くツ
ッコむ。「暖炉ついてる部屋に泊まれて不平言うな」、「メキシコのこと知らずに文句
言うな」。何よりも、「あと3泊もクエルナバカに居られるのに、ゼイタク言うな!」。
そう、今の私はもうクエルナバカが大好きでたまらない。そんな気持ちに180度転
換させてくれたのが美味しい料理、豊かな自然と明るく優しい現地の人たち、そし
てかりさんとかずさんのスーパーコーディネーター・カップルなのであった。
日本の外資系会社でバリバリ働いていたかりさんは、さすがVIPの滞日スケジュー
ルを組み立ててらしただけあって、驚くべき頭の回転の速さで私たちの無理なお願い
をスイスイと実現させてしまう。知的で優しいかずさんは愛車キャデラックを駆って、
フォトジェニックなロケ地候補に次々連れていって下さる。今回の写真は別の所に決
まっても、別の機会に必ず撮りたいと、カメラマンの小泉佳春さんもうなっていた。
それにしても、撮影時の果てしない広野の眺めと、遠い山に沈む夕日と空の美しさは
忘れられない。ぜひ2月7日発売の小誌、クレア3月号、巻頭あたりを開いてみてほ
しい。立ち読みでもかまわない。私たちが見たメキシコの泣きたくなるような風景を、
皆さんにも御覧いただきたい。そしてクエルナバカを愛する青木さんの、写真に負け
ない美しいエッセイの余韻を味わっていただけたら嬉しい。
かりさんかずさん、本当にありがとうございました。いろいろ無理難題のお願いをし
ました。時計持ってない現地のおじさんに「明日の午後5時にヤギ90頭連れてここ
に来てほしい」なんて、頼んでもらっちゃってごめんなさい。結局おじさん来なかっ
たけど、お2人は「ウシかヤギはいねが〜」とばかりに、広野を走り回って探して下
さいましたね。おかげでいい写真が撮れました。ロケハンで訪れたホテル、ラス・パ
ルマスが気に入って一泊したい! という我々の我が儘を叶えて、へとへとになりな
がら遠い道のりを送り迎えしてくれましたね。今度訪ねる時は仕事ぬきで、スペイン
語できるだけ覚えて自立して行きますから、またおいしいメキシコご飯のお店、教え
て下さい。旅行特集の取材などでも色々な国を訪ねて来ましたが、こんなにその国を
好きにさせてくれたコーディネーターはかりさんとかずさんが初めてです。だからス
ーパーコーディネーターと呼ばせていただきます。
暖炉の方はというと、翌日部屋を変えてもらった後はもう快適の一言。パチパチ燃え
る炎に頬も心も熱くしながら、毎晩いそいそと薪をくべていたのであった。