「クエルナバカの碧い空」第46号
#5 訪問者紹介その1 − 榎本 恵都さん
生まれつきの浪漫派の旅人、それが恵都さんの印象です。一日中、自分のペースで、
知らない土地を歩き、知らない人と話し、沢山の発見をする…。見知らぬ国を旅する
人の本当の醍醐味を味わったようです。

榎本 恵都さん

メキシコ料理は大好き。長旅に
備えて、いっぱい食べます。

メキシコは日本の5倍、広いです。
もう一度ゆっくり来たいところですね。

(クリックで拡大)

では、恵都さんから一言: 旅程は12月初めから1月初めという1ヶ月。日本では
「いいなあ、1ヶ月も」と言われますが、メキシコでは「えっ、たったそれだけ?」
ずいぶん欲張ってあちこち行きましたが、「やっぱり足りない。また来るから次にし
よう」と決心させられるくらい見るところがたくさんありました。 そして広い!

メキシコ旅行の最大の目的は、チワワで通訳として働く友人と共に、彼女のクリスマ
ス休暇に合わせてオアハカ旅行をすること。オアハカには9日間滞在し(12/23
から12/31)、毎日同じ界隈を歩き回っていました。高地なので、昼夜の寒暖の
差が多少ありますが、薄手の長袖に一枚羽織るものを持って出れば、一日中快適に過
ごせます。かなり日焼けもしました。中心地は碁盤の目のようで、こぢんまりとして
おり、ぷらぷらと歩くのが好きな私にはちょうど良いサイズです。

ソカロとサント・ドミンゴ教会が2大目印で、この2つを結ぶ通りには土産物屋など
の店がずらり。ソカロにはお祭りの縁日のように屋台が300軒くらい毎日出ていま
す。民芸品ゾーンには、私の大好きな、色とりどりの刺繍品や織り布が山のようにデ
ィスプレイされ、見ているだけでも楽しくなりました。家族連れの多いソカロとは対
照的に、サント・ドミンゴ教会前は若者で賑わい、おしゃれなカフェが集まっていま
す。インスタントコーヒーではなく、おいしい。満足!この辺りにはアートスクール
やギャラリーがあり、新しい流行の発信地になっているようでした。

年末のある日、私達2人が歩き疲れてソカロのベンチで休んでいると、靴磨きのおじ
さんが目に入りました。いつも靴磨き屋さんは見掛けますが、その仕事ぶりをじっく
り見るのは初めてでした。かなり丁寧だし、お客さんとのやりとりで相場は10ペソ
(約150円)らしい、そして私のブーツは汚れきっている―ボラれるかなと心配し
つつも私はこのおじさんに磨いてもらうことにしたのです…。

「お願いします」と言うと、おじさん私のブーツを一瞥し、ボソッと「15」。えっ
10じゃないの?靴の面積が料金に関係しているのかなと推測。席につくと友人が写
真を撮ってくれた。おじさんがはにかみながら「日本人か?じゃあ俺の写真が海を越
えて日本に行くわけだ」と話し始める。お互いに家族のこと仕事のことを話す。おじ
さんの手は休みなく動く。調子にのって私もインタビュアー気分。「雨の時は仕事でき
ませんよねえ」と聞くとやっぱり仕事は休みになってしまうらしい。そういうときは
家でテレビを見たり、コーヒーを飲んだりしてくつろいで、子供達といっぱい遊んで
やるんだ。一番下の子はまだ1歳でね(これは2回も言った)…と嬉しそうに教えて
くれた。そうか、じゃあ今日はいい天気だから雨の日の分まで稼いでおかないとね。
故郷と仕事に誇りを持ち、家族を思う暖かい気持ちが、時々目を細めながら話すおじ
さんから伝わってくる。名前を教えあい、私がヨロシクと言うとおじさんは「汚れて
るけど」と申し訳なさそうに手を差し出した。私は何も言えなくなったかわりに、し
っかりと握手をした。ぴかぴかになった靴に満足そうにしていたら、「次はいつ来る
んだ?来年か?」と笑う。来年ってもうすぐだよ!無理ムリ!と心のなかでつっこん
でおいた。

一人旅のときにした失敗で我ながら情けないのは、曜日感覚を無くして手持ちの現金
がゼロになってしまったことです。焦りました。プエブラでの日曜日のことです。思
い出すと笑えます、財布の中身が空っぽなんです。クレジットカードだけ。両替しよ
うにも銀行では「当行発行以外のトラベラーズチェックは平日のみ」と冷たく言われ、
日曜でも開いている両替所が見つからず、結局空腹のまま寝てしまいました。ちょっ
としたレストランに行けばカードが使えるのですが(ちなみに名物料理のモレは前日
に食べていました)、それも何だか悔しくて、10ペソあればあれが食べられるなあ、
あそこで無駄遣いしなければよかったなあと猛烈反省しました。それからは日記にち
ゃんと曜日を入れるように致しました!

曜日についてもう一つ。メキシコシティに土・日・月の3日間滞在しました。日本と
同じく月曜はほとんどの博物館が休み。あわてて休館日を調べてスケジュールを組ん
でみるものの、日没後は一人で出歩かないようにと忠告を受けていたので、自由に動
ける時間にかなりの制約があり、優先順位をつけ、泣く泣く一つ一つ予定から外して
いきました。

現地についてから、どうしても行きたくなったところがありました。建築家ルイス・
バラガン(Luis Barragan)の自邸です。あちこちから情報をもらって、ようやく
辿り着いたときの嬉しさと言ったら!家の中は、世俗とは切り離された静寂の空間で
した。色…光…。絵の中にいるようです。彼はもうこの世にいませんが、彼自身がそ
こに確かに存在していました。うまく言葉で伝えられませんが、メキシコの風土を愛
したメヒカーノの家であると感じました。

クエルナバカについて触れておきます。4日間と短時間でしたが、ここでもこんがり
日焼けしました。私が好きなのはカテドラル。歴史はあまり知りませんでした。(ご
めんなさい。)入ってみて宗教儀式を行う舞台空間として、すごく良くできていると
思いました。キリスト像や祭壇の文字が独特な魅力を持っています。装飾きらきらの
芸術的カテドラルと比較すると寂しいくらい素朴な内装ですが、それが却って新鮮で、
祈りの場としての力強さを感じました。その意味で、私が世界中で今まで見た中で一
番好きなカテドラルです。

実はメキシコが私にとって初のスペイン語圏。学生時代に専門にしていたのに忘れ放
題だったので、言葉に関して不安でした。語学が好きで勉強したのに「前は話せた」
「もっと話せるはず」と、自ら課題を設けてしまうため外国語コンプレックスに陥っ
ていました。しかし、幸運なことにメキシコのスペイン語は柔らかく、耳触りが良く
て、比較的聞きやすかったのです。メキシコで良かったと思います。

メキシコは「なんでもあり(Hay de todo)」の国。これを少々都合よく解釈させて
もらうと、メキシコをどう楽しもうといいんだよという「なんでもアリ」になります。
違いを受け入れ、楽しむ土壌のおかげで、私は私なりの楽しみ方で旅をすることがで
きました。そしてそれは肯定され続けました。それもアリだよねと。五感と、勘をフ
ル回転しながらのメキシコの旅は、疲れよりも自信を与えてくれるものでした。

最後にこの場をお借りして、このような文を載せる機会を与えてくださったかりさん、
かずさんに一言お礼申し上げます。お二人との会話が鍵となって旅に影響したほど、
お話が心に残っています。 

次はどこへ行こう?なにをしよう?
私はこんなことをもう考え始めています。
 
榎本恵都

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