
「クエルナバカの碧い空」第55号 #4 トピックス − 唐辛子CHILE前号トピックスで紹介したメキシコ原産の野菜の第2弾はメキシコ一番の代表野菜で ある唐辛子CHILEです。メキシコに来た当時は辛いものが苦手で、恐る恐る食べて いたのが、今ではそのピリカラが無くてはならない毎日です。8000年の歴史を持 ち、メキシコ人の重要な栄養源であり続けるチレ。好きにならずにいられましょうか。 今回は、チレの種類と、チレにまつわる話を紹介します。まずは、チレの紹介です。 チレの種類を数えることはほとんど不可能です。地方独特のチレあり、同じチレでも 地方によって名前が異なるし、新鮮なものと乾燥したもの、あるいは成長の度合いに よって名前だけでなく、改良種も続々出ています。また成長によって色や辛さが変化 するし、ピーマンのように全く辛くないチレもあって、全てが辛いとは限りません。 今回は、モレーロス州に住んでいる私達が知っていて、生活に欠かせないチレをいく つか代表として紹介します。 PIQUINチレ・ピキンは店では売っていません。我が家の庭のハイビスカスの生垣 にが自生しています。野生のものが多く、鳥が食べて種を散らばすので、思いがけな い場所で見る事があります。長さ1センチくらいの非常に小さなチレで、成長によっ て緑色から赤に変わり、緑色の時には非常に辛いです。枝からポロリと落ちるので、 ガスを運んでくる男性が通り掛かりに数個つまんで口に放りこむのをよく見かけます。 メキシコで人気の日清やマルチャンのカップラーメンには、チレ・ピキン味があって、 メキシコ人はレモンを絞って、激辛のラーメンをすすっています。 JALAPENOハラペーニョはチレの代表と言えます。スーパーではCUARESMENOという 名前で売っている事もあります。5センチくらいの長さのキレイな円錐形で、しっか りした濃い緑色をしています。ハラペーニョのESCABECHEの缶詰はいかにもメキシ コらしく、メキシコ土産になります。日本からの客人が、レストランでハラペーニョ の丸揚げを調子に乗って4本くらい食べた後失神したと言う話は、語り草になってい ます。辛いです。メキシコ・ハンバーガーなど、どんな料理にも合います。 CHILE MANZANOマンサーノは名前の通り小型のリンゴのような可愛らしい形で、黄色、 赤など色合いも美しいので、よく大皿料理の飾りに使われます。色の美しさに騙され てはいけません。口に含んだ途端に舌が刺され、しびれ、火が吹いて、水を飲んでも 氷を噛んでもどうにもならないくらい辛いです。これは飾りとしておいておくべきで、 決して口にしてはいけません。サルサも作りますが、種は辛すぎるので除きます。 上左:ピーマン、上右:ポブラーノ、 下左:セラーノ、下中央:2個アバネロコ、下右:マンサーノ CHILE SERRANOセラーノは、長さ5センチ程の細くて緑色のチレです。サルサ・ メヒカーナSALSA MEXICANA、ワカモレGUACAMOLE、サルサ・ベルデSALSA VERDE などのサルサ系に欠かせない辛味です。チレ・セラーノ、トマト、タマネギを微塵切 りにして、アボガドと混ぜ合わせ、塩とレモン汁で味付けして、ワカモレを作るのが 私の得意技です。一度、夕食前にワカモレを作り、夕食の後シャワーも浴びて、寝る 前にコンタクト・レンズをはずしたら、チレ・セラーノの辛さが手に残っていて、目 から火が吹き出ました。目も開けられない辛さ。 CHILE POBLANOポブラーノは成長段階によって辛いときと辛くないときがあり、辛 くない時には、CHILE RELLENOやCHILE EN NOGADAなどの詰め物料理に使われます。 ピーマンを長く延ばしてひしゃげたような濃い緑色のチレです。乾燥したものはチレ ムラトCHILE MULATOと呼ばれ煮物料理などに使われます。 HABANEROアバネロは直径2センチくらいの、明るい緑色のチレですが、見かけに よらず非常に辛い。メキシコではユカタン半島だけで栽培されているそうで、多分、 「ハバナの」という名の通り、もともとはキューバから渡ってきたのかも知れませ ん。メキシコで栽培されるチレで最も辛いと言われるチレです。 CHILE DULCE(または、PIMIENTON, PIMIENTO VERDE)ピーマンは、チレだけれど 全然辛くないせいか、メキシコでは余り消費量が多いとは言えません。主にアメリカ、 カナダへの輸出用に栽培されているそうです。でも私達にとっては超美味、焼肉に欠 かせません。長さも直径も10センチほどもあって大きく、緑色がピカピカしていて 果肉も厚くて甘くジューシー。正直言ってメキシコのピーマンを食べた後では、日本 のピーマンは物足りなく感じるかも知れません。黄色や赤のピーマンもあります。 CHILE ANCHOアンチョ、PASILLAパシージャ、 ARBOLアルボル、GUIJILLOウアヒー ジョ。CASCABELカスカベル、MORAモラ等は乾燥チレの代表です。アルボルのように 非常に辛いものと、アンチョやパシージャのようにあまり辛くないものなど、料理に よって使い分けます。また、ただ乾燥してあるものと、半地価のカマドで燻して作る 燻製チレがあります。クエルナバカの超有名ホテルLAS MANANITASのレストランで食 べるソパ・アステカSOPA AZTECA (SOPA DE TORTILLAとも言う)には、大きな乾燥チ レを煎ったのが付いて、割ってスープに入れて食べると香ばしいです。 左から、アルボル、モラ、パシージャ、アンチョ 以上が普段私達も食べているチレでした。ナウアトル語でchilliというこの植物 は、スペイン人がメキシコを征服後、世界に広めましたが、例えば、インドなど香辛 料の先進国でも、chilliという名前のまま使われています。現在では、新鮮なもの だけでなく、缶詰のescabeche、乾燥チレ、粉末や液状のものなどが市販されていて、 いつでもどこでもなんにとでも一緒に食べます。 CHILE EN ESCABECHEは、チレ(主に、ハラペーニョ)をこんがり焼いて皮をむき、 ニンニクやタマネギと一緒に油で揚げて、酢や香味野菜、塩につけた保存食です。缶 詰にもなっていますから、日本にお土産として持ち帰ることができます。 ハラペーニョのエスカベッチェ缶詰 チレの粉末は赤、オレンジ、黄色の染料としても使われています。養鶏業者がニワト リの飼料として利用しているそうで、この飼料を食べたニワトリPOLLOは、鶏皮や 卵黄の黄色味が濃くなって、美味しく見えるのだそうです。そう言えば、メキシコの ニワトリは白っぽい日本の鶏肉と異なり、色がやけに黄色いのに気付いていました。 隣人のサリータおばちゃんが「あれは、ペンキを塗っているのだ」と言うので、「マ サカネェ」と思っていましたが、やっぱり、濃い色の原因は粉末チレでした。 液状のものは、たとえば、タバスコ(タバスコ自体はアメリカの商品)のようにピザ にかけたり、メキシコ独特の食べ物チチャロンCHICHARRON(豚の皮の揚げ物)にかけ たり、ポテトチップスにもかけるし、ビールのミチェラーダMICHERADAに入れるサ ルサも売っていて、使途に応じて色も辛さも様々です。 医薬用にも、食欲増進だけでなく様々に応用されて、傷薬や麻酔などにも使われてい るそうです。チレの辛さは胃を刺激して食欲増進の効果がある一方、空腹を忘れさせ る効果もあって、肉体労働者ほど好んで食べると言われています。また、地方によっ ては現在もチレの枝を使った病気よけや魔よけのお払いが行われているそうです。 メキシコ・シティのメルセド市場MERCADO DE MERCEDのチレ売り場は特に有名で、 アステカ時代の昔から、ソチカルコの浮き畑CHINAMPASで栽培された野菜とともに、 チレも、網目のように巡らされた運河VIGAを走るトラヒネラTRAJINERASという小 船でメルセド市場まで運ばれました。現在も、メルセド市場のチレ売り場では、黒い 乾燥チレが壁にびっしりと貼られ、大きなカゴに新鮮なチレや乾燥チレが山盛りにな って売られ、どこを見まわしてもチレばかり。近くを通るだけで、目がツーンと痛く なるほど、空気全体が辛くなっています。因みに、日本で品種改良されたチレ・ハポ ネスという種類のチレも売られていました。 チレの料理法も様々です。でも一番はやはりサルサでしょう。メキシコ料理はどれも 辛く、メキシコ人は誰でも辛い料理が大好きと思っている人が多いと思いますが、大 きな勘違いです。辛いのが苦手のメキシコ人もいますから、大抵の料理は素材を活か したマイルドな味で、チレを使ったサルサSALSAをかけて、好みの辛さにして食べま す。元々辛い料理の場合は、「辛いよMUY PICANTE」と教えてくれます。もっとも、 メキシコ人が「辛くないよ」と言う料理でも、日本人には結構辛い場合あるので、メ キシコ人の舌を基準にするのも難しいことですが・・・。 我家特製サルサ・ベルデ、器はMOLCAJETE 舌に直接来て汗がでるようなチレの辛さは独特で、鼻にツンときたり涙が出るわさび や、複雑な味が混じるキムチの辛さは苦手なメキシコ人も多いです。メキシコで数年 生活して日本に戻ると、チレの辛さを懐かしく思い出す日本人も多いと思います。 生活に密着といえば、歌や諺にもチレが頻繁に登場します。有名な"La llorona" という歌では、"yo soy como el chile verde, llorona, picante pero sabroso" 「僕は緑色チレみたいなものさ、泣き虫さん、辛いけどうまいよ」と歌い、また、 "como el chile piquin, chiquito, pero picoso"「サンショ(チレ・ピキン)は 小粒で、ぴりりと辛い」という諺もあります。 カボチャやトウモロコシ、豆などのメキシコ原産の野菜たちも、チレが無かったら、 現代まで生き残れたかわからないと言われるほど、チレの味付けがあったからこそ、 他の素材も美味しさが引き立って食卓に乗りつづけたと言われるのです。"sin el chile, los mexicanos no creen que estan comiendo"。「チレがなければ、自分が 食べてるということさえ信じられない」、つまり味がしないと言うのです。 最後に、前号の#4トピックスで「チリコンカン」という、日本ではメキシコ代表の 料理と思われている料理を、どうしてメキシコに住んでいる私達が食べた事がないか、 という疑問を呈しました。残念ながら答えを知っているというメールは届かなかった けれど、自分で調べました。「チリコンカン」とはスペイン語で"CHILE CON CARNE" 即ち「牛肉とチリ」料理で、1840年代まではメキシコ領土であったアメリカ南 東部(主にカリフォルニア地方)で、牛挽肉、チレ微塵切り、香料などを豆と一緒に 調理して、健康的なメキシコ料理として創作されたそうです。アメリカから直輸入さ れて日本で有名になりましたが、牛肉もチレも豆も普段から普通に食べられているの で、メキシコでは特別な料理としては知られていないようです。 表紙に戻る次に進む バックナンバー#2 メキシコの住宅事情#3 警官への賄賂 #4 音楽友の会 10周年コンサート裏話 #5 ノーチェ ブエナ物語 #5 クリスマス行事 #6 年末年始の休みとグアダラハラ家族旅行 #6 トレス レイエス #7 ビザの種類と更新 #8 モナルカ蝶の聖域ツアー #9 ガールスカウト奈良支部 #10 チャイコフスキーのバレー「白鳥の湖」 #11 メキシコ縦断アメリカ転々旅行 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