
「クエルナバカの碧い空」第56号 #4 トピックス − 命の木 EL ARBOL DE LA VIDAメキシコを旅行すると色とりどりの様々な民芸品に出会いますが、そんな中でも特に、 燭台や香炉として作られた「命の木」EL ARBOL DE LA VIDAには、単なる民芸品と は異なる不思議な魅力があって、出会った時には、しばしぼう然と見とれてしまうに 違いありません。残念ながら、作品の絶対数が少ないせいか、民芸品店や室内装飾の 店でよく売られている品物ではないのですが、各地の民族博物館などで見る事ができ ますから、機会があったら観賞してください。 写真は、コルテス宮殿横の本屋さんで売っていたものです。左は「命の木」で、右は、 「死の木」EL ARBOL DE LA MUERTEです。ガイコツがユーモラスな「死の木」の方 が派手に見えます。メキシコ州メテペック市で作られた作品です。
博物館で見られ、また内外の賞を得ている作品も多い「命の木」ですが、メキシコの 民芸品の中でも比較的に新しいもので、1920年ごろに民芸品として創作され、本格 的に工芸品として人々の人気を得るようになったのは20世紀後半に入ってからです。 主に、メキシコ・シティの北にあるメキシコ州のメテペック市METEPECと、プエブ ラ州のイスカル・デ・マタモロスIZUCAR DE MATAMOROSやアカトランACATLANで作 られています。小さなものでは高さ15センチほどのものから、大作では最大6メー トルもの大きなものまで様々ですが、いずれもメキシコ人の生活や信仰を題材に、細 かな風景描写がされて、見飽きることがありません。 工芸品としては新しくとも、「命の木」にまつわる伝説は古くからあります。キリス ト教の人でなくても、聖書の創世記に出てくるアダムのイブの話は、誰でも知ってい るでしょう。創世記に以下のようなくだりがあります。 「主なる神は東のかた、エデンにひとつの園を設けて、その造った人をそこに置かれ た。また主なる神は、見て美しく、食べるに良い全ての木を土から生えさせ、更にそ の中央に「命の木」と「善悪を知る木」とをはえさせられた。」 この「善悪を知る木EL ARBOL DE LA CIENCIA DEL BIEN Y DEL MAL」の果実を、 へびにそそのかされたイブとアダムがを食べて、羞恥心を知ることになるのですが、 それはさておいて、メキシコにも、メキシコ人がキリスト教を知る前から、「命の木」 の伝説がありました。例えば、オアハカ地方のミクステカ族は、母なる大地から生ま れたマドローニォと言う果樹を「起源の木」と呼び、また、マヤ文化の古文書には、 セイバ(パンヤノキ)を「生命の木」として、生命の象徴としています。 スペイン人がメキシコを征服した時に、メキシコ原住民に、聖書の教えを説明するた めの道具として作って使われたのが、極く素朴なアダムとイブをモチーフにした「命 の木」でした。最初の見本とも言える「命の木」は、「善悪を知る木」であるりんご の木の下に、アダムとイブとへびをあしらっただけの非常にシンプルなものだったそ うです。 やがて、20世紀に入ると、アダムとイブに加えて、神や天使、鳥などもあしらわれ、 さらには、花々や果実、動物も参加し、やがて現在の華やかな「命の木」が見られる ようになりました。 ピラミッドや遺跡からも多く出土しているように、もともとメキシコは土器が各地で 様々な用途に作られ、使われてきました。土器の職人であるALFARERO陶工たちの中 でも、現在は、メテペック市のソテノ家族や、イスカル・デ・マタモロスのカスティ ジョ家族など、すでに現代の名匠と呼ばれるに相応しい人々が、想像力も豊かな大作 を作りつづけています。 その想像力の豊かさと、色彩の美しさは驚くほどで、例えば、バロック風教会の、非 常にゴテゴテとした神々や天使達を配した祭壇の模様のように、聖書の中の人物や植 物、動物などが重なり合い、垂れ下がり、突き出るものや、数多くのアーチに様々な 生活風景が再現されるものなど、作家の家族によって様式が異なって、特徴がありま す。いずれも、「命の木」を前に、顔を近づけて見ると、登場人物、鳥、動物たちが、 ひとつづつ愛情をもって、表情豊かに作られていることがわかります。 単なる飾りとして出なく、燭台や香炉などの形もある「命の木」は、アダムとイブの 話や、ノアの箱舟ARCA DE NOE、キリスト誕生NACIMIENTOやトレス・レイエスTRES REYESなど聖書からの風景を題材にしたものだけでなく、死者の日DIA DE MUERTOS の飾りとしてガイコツが踊り楽器を奏でるもの、各地の祭りFIESTAS、各地のティ アンギスTIANGUIS、民族舞踊などのメキシコの伝統、また海の幸MARISCOSやモレ MOLE、タラベラTALAVERA、その他、春の喜びや、自然をたたえるものなど、その 想像力は留まることがありません。 下の写真左は、プエブラ州、イスカル・デ・マタモロスのカスティージョ家の作品。 様々なティアンギス(#1モレーロス州紹介参照)を題材にした「ティアンギスの木」 EL ARBOL DE TIANGUISです。よく見ると、果物マーケット、肉マーケット、洋服、 靴屋など、様々なマーケットに集まる人々(ガイコツ)の様子が表情豊かに現されて います。 写真右は、「メキシコ伝統の木」EL ARBOL TRADICIONES DE MEXICOで、メテペック 市のソテノ家の作品です。それぞれのシーンを見ていると、こちらも想像力が働いて 物語ができそうです。(ふたつの写真はアルバロ・ビテリさん撮影のものです。)
元々は宗教から始まったものであるにもかかわらず、今では多彩な題材を扱って、ま さにメキシコ人のユーモアや色彩感覚、器用さを知る事ができる「命の木」、じっと 顔を近づけて見てください。ひとつの木から、いくつものメキシコ人の生活の場面を 垣間見ることができるでしょう。私達も、クリスマスを題材にした「命の木」をひと つ買いたいと思ったのですが、コルテス宮殿に売っていたものでも800ペソと高価 で手が出ませんでした。博物館の大きなものを時々観賞に行くのが良いようです。 表紙に戻る訪問者紹介へ進む バックナンバー#2 メキシコの住宅事情#3 警官への賄賂 #4 音楽友の会 10周年コンサート裏話 #5 ノーチェ ブエナ物語 #5 クリスマス行事 #6 年末年始の休みとグアダラハラ家族旅行 #6 トレス レイエス #7 ビザの種類と更新 #8 モナルカ蝶の聖域ツアー #9 ガールスカウト奈良支部 #10 チャイコフスキーのバレー「白鳥の湖」 #11 メキシコ縦断アメリカ転々旅行 #12 メキシコの飲み物 #13 テキーラ #14 花が咲いて実がなった(街で見る果物) #15 アステカ・カレンダリオの謎 #16 2000年・年越し祭り #17 9月16日 独立記念日 #18 特別ゲスト、中村さつきさん #19 DIA DE MUERTOS 死者の日 #20 葛飾諏訪太鼓メキシコ滞在記 (リーダー水澤啓一 記) #21クエルナバカの年末年始 #22 メキシコ病院事情 #23 今も懐かし、街頭の物売りたち #24 養老院YALENTAY慰問コンサート #25 メキシコの温泉も気持ちいい(*^o^*) #26 ノパール NOPALで健康に! #27 メキシコの選挙 #28 ロマンチック・アシエンダ(荘園)街道巡りの散策 #29メキシコ、愛国心のしるし #30メキシコの結婚式 − 二つの体験談 #31メキシコ原産トウモロコシ MAIZ の秘密 #32 6年に一度の大統領就任式 #33 メキシコのピニャータ #34 火山ポポカテペトルと山麓の世界遺産−修道院群 #35 MARCHA ZAPATISTA サパティスタの行進 #36 メキシコの飲み物 第二弾 − メキシコの伝統的な飲み物 #37メキシコの飲み物 第3弾 − メキシコのアルコール飲料 #38 QUINCENERA -XV歳の社交界デビュー・フィエスタ #39 メキシコのお金 #40「民宿かず」お客さま第一号記念 #41 メキシコの祝祭日・記念日 #42メキシコ・シティから独立記念日の実況中継 #43 RUTA DE ZAPATA 革命児サパタを辿る道 #44メキシコのクリスマスと「NACIMIENTO」飾り #45メキシコの伝統菓子 #46メキシコの宝くじLOTERIA #47藤枝先生のメキシコ体験談 #48ラス・エスタカス物語HISTORIA DE LAS ESTACAS #49メヒカン・フルーツの全て(第一部) #50メキシコのルチャ・リブレ−高橋千歳さんの特別報告 #51 PAPA JUAN PABLO II メキシコ来訪メモ #52 メキシコ・シティの地下鉄 METRO EN MEXICO #53 TEMAZCALの謎 #54 メキシコ原産の野菜たち #55 唐辛子CHILE |