-呑気家族のメキシコ移住計画-
出版:近代文芸社
石田 かり・著
                         「クエルナバカの碧い空」第70号
#6 本の続編 − スペイン語で講演; おまけの話: 大統領選
2月4日、午後5時から、スペイン語学校UINTER(CENTRO BILINGUE)にて、海外から
の語学留学生を受け入れているホームステイ先のメキシカン家族のお母さんたち相手
の講演をしてきました。題して「メキシコと東洋に於ける文化の相違 DIFERENCIAS 
CULTURALES ENTRE MEXICO Y EL ORIENTE」。

当初20人ほど集まる予定のところを、実際には15人ほどのお母さんたち(お父さ
んも一人)が参加してくれました。嬉しいのは、講演がスペイン語で行われたこと、
参加者は少人数とはいえ、全てメキシコ人であったことです。メキシコ在住10年目
にして、対等に話し合う立場までこぎつけたかと感無量ではありますが、実際にはま
だまだヒアリングに難があって、人の言っている事が80%くらいしか分からず(相
手によっては50%まで下がる)、自信満々というには程遠いのが悲しい現実です。
初めてのスペイン語講演、まあまあの出来かな?
(クリックで拡大)
アカペラで長時間、話しをすることはできないので、メモ程度ではあるけれど原稿を
用意しました。そうしたら大発見。メキシコと日本の文化の違いを書き挙げると、両
国間にはそりゃもう広くて深い太平洋があって、その両岸では正反対としか思えない
ような相違があるのです。世界中に色んな国があって、ドイツ人は冷たいとか、アメ
リカ人はケチだとか、メキシコ人は色々自分たちと異なる人種の話をしますが、しか
し本質的に、磁石のプラスとマイナスくらい異なるのがメキシコと日本です。

まず文化から入ったのですが、これが違う。メキシコの文化は極彩色です。刺繍でも
壁画でも、ずばり色が多彩で主張が激しい。マリアッチもキンキラキンのボタンを沢
山つけた衣装に大きなソンブレロ、声を張り上げて歌うし、民族舞踊の衣装も華やか、
全円形の裾を大きく広げて踊ります。文学でも、メキシコでは今も詩が人気なのです
が、長い長い何ページにも及ぶ詩が読まれる。朗読するときも、身振り手振りも大袈
裟で、日本人なら目を覆いたくなることも。

反して日本では、墨絵や書道に代表されるように、濃淡はあっても黒一色で全てを表
し、あるがままで説明が無し。あるいは俳句や短歌は長くても2行、饒舌なメキシコ
人にはびっくりの短さで、ここにも言い訳や説明はなく、あとは相手の想像にお任せ
のシンプルさです。

音楽なら、尺八やお琴、太鼓など力強さはあっても、単音のシンプルな楽器が多い。
先日、ある雑誌で尺八のことを読んだのだけれど、尺八の世界に「一音成仏」と言う
言葉があって、音楽は究極的にはひとつの音で足りるという意味なのだそうですが、
これは極端な考え方としても、日本人は芯のところで、なるべく削れるものを削って、
空白は空白のままにしておく方が相手の心に届くと思っているところがある。あとは
目で物を言ったり、阿吽の呼吸があったり…。

随分前ですが、メキシコ人が描く墨絵の展覧会に行ったことがあります。どれも墨絵
ではあるのですが、殆んど全ての絵に赤や緑色が入っているのです。それは丸だった
り、猿の顔だったり、ユーモアがあって、それなりに墨絵で、面白いのですが、やっ
ぱりメキシコ人は黒だけでは我慢できないんだと感心したのでした。

能にしても文楽にしても、能面や黒子という表情の無いところに意味があって、これ
がメキシコでは大反対。説明に説明を重ね、言葉で足りなければ、顔の筋肉も手足も
動かして、自分の言いたいことは残りかすも残らないほど表現しないと気がすまない
という感じがあるのです。隣人のハイメが一度、日本の映画をテレビでやっていると
電話してきたので、ちょっと見たことがあります。確か、「うなぎ」とかなんとか言
う映画だったのですが、翌日、「ハイメも見たのか?」と聞いたら、自分は見なかっ
たそうです。そう、喜劇やアクションものでなければ、特に男性は主役でもほとんど
しゃべらないから、あまり面白くはない。

このように、能や文楽は昔のことで、現代はオーケストラもあるし、ロックもあるの
だから随分、変化したと思うでしょうが、これが芯の部分で変っていないのです。今
回のこの講演を依頼されたのも、日本から来る学生たちとの応対で戸惑うファミリー
が多いからで、個々の日本人は、関西人など例外はあっても、大抵は控えめで無口。
つまり表現しない、主張しない、言い訳もしない日本人を相手に、メキシコ人はどう
したらよいかわからない。

習慣も異なります。まず初対面での挨拶。メキシコ人は握手し、抱擁し、背中を手で
叩いたりこすったり、極めつけはほっぺたにチュです。そのときに、「歓迎」に始ま
って、「会えて嬉しい」とか「私のうちはあなたのうち」とか思いつく限りの言葉が
浴びせられ…。まだスペイン語も覚束ない初心者でなくても、アワアワとあわてるか、
ニコニコと意味もなく笑うかしかありません。日本人だったら、大抵は、挨拶はおじ
ぎして、「はじめまして、宜しくお願いします」で済ませたいし、あんまり見知らぬ
人に体を触られたいとは、正直なところ思わないもの。

また時間に関する感覚も大いに異なります。日本人はなるべく、言葉少なく、簡潔に、
時間をとらない方法を考える。例えば人の家を訪れても、「お邪魔します」とか「お
邪魔しました」とか言うのですが、これをメキシコ人に言うと目を丸くします。つい
先日も、庭で隣人たちが集まったのですが、そのとき、丁度、外出先から私たちが通
りかかると、隣人のハイメが、「最近、付き合いが悪いね」と言うのです。そりゃそ
うです。毎回、毎回、3時間も4時間もおしゃべりを続ける人々と付き合っていたら、
日本人的思考として、「時間の無駄」というものです。

ところが、この「時間の無駄」と言う言葉をうっかりと漏らしてしまったから大変。
隣人同士が庭でおしゃべりするのは、CONVIVIOと言って、お互いに理解を深めるた
めの重要なお付き合いであって、「無駄とはなんたる暴言!」というわけです。私た
ちは無職で、別に忙しいわけではないのですが、それにしても彼らの時間の豊富なこ
と!銀行などでも、ちょっと待たされてイライラしているのは決まってアメリカ人。
メキシコ人はゆったり、見知らぬはずの人でも列の前後でおしゃべりが始まって時間
はメキシコ式に有効利用されるのです。時間の感覚が異なることは、あまりに良く知
られているので、これ以上の説明は不要でしょう。

こんなエピソードもありました。随分以前のことですが、ある日本人夫婦が小さな子
供二人と、クエルナバカに移住してきて、商売を始めたのです。ところが、数年する
と家族は店を閉じて日本に帰ってしまいました。あとで、噂に聞いたところによると、
子供たちが幼稚園や小学校でメキシコ人と遊ぶうち、メキシコ人のような性格が身に
ついてしまった。特に、何か悪さをしても、子供たちが絶対に謝らない。ごめんなさ
いと言わない。これが、夫婦にはとても我慢がならず、教育環境としてメキシコは最
悪であると判断して、帰国する決心をしたと言うのです。

この例を話し、「メキシコ人は『ごめんなさいPERDON』と滅多に言いませんね」と、
私が言うと、集まったお母さんたちは一斉にウンウンとうなづき合ったのですから、
自覚はしているようです。「ごめんなさい」だけでなく、聞かれても、知らないと言
えず、知っているように振舞うとか、その言動はとても肯定的です。それに反して、
日本人は今でもつい否定的に、あるいは控えめに考えがち。

コーラス・グループのコンサートの後で話し合いがあったときにも、私は当然これは
反省会だと思ったのですが、みんなの口から出てくるのは、「とても素晴らしかった」
とか、「完璧だったね」とか信じられない言葉ばかり。同じメゾ・ソプラノのルピータ
が、「私は生まれつき美声を持って生まれたことを、いつも神様に感謝しているのよ」
と言った時には、正直、ぶっ倒れそうになりましたね。ルピータは自信があるせいか、
いつも人よりも一拍早く歌いだすので、先生によく注意されているんです。いずれに
しても、日本人なら、たとえ自信があっても、人前でこんなことは言いません。

まさか、今では家族のことを、愚妻ですとか、豚児ですと言う人はいないでしょうが、
それでも何かにつけて、「つまらないものですが…」とか、「たいしたことないです」
とか、誰の責任かわからないうちに「ごめんなさい」とか言ってしまう日本人の私と
しては、ここに住むには言葉だけでなく、性格も強くならなきゃと構えてしまいます。

性格的には日本人は、少なくともメキシコ人に比べると、恥ずかしがりで控えめです。
メキシコ人なら人のことをジロジロ見て、目が合うと話しかけてくる。メキシコ人の
子供たちが可愛いのは、すぐに、「どこから来たの?」とか「結婚している?」とか、
「日本はメキシコよりも大きいの?」とか思いつく限りの質問をしてくること。日本
なら、あまりこういう風景は見かけません。

経済的な差もあって、若い女性でもどんどんお金をためて語学留学に来ます。反対に
メキシコ人がどんなにお金をためても、日本に私費留学することは、学費や生活費を
考えるととても不可能。まだスペイン語で自己紹介もできない若い日本人女性がメキ
シコに来て、挨拶されても何もいえず、食事の時間も一人会話に参加することもでき
ずにひそかに涙を流し、学校で手とり足とりで教えてもらい、街を歩くと人に話しか
けられ、タクシーの運ちゃんにも話し相手になってもらって、やがて生活に慣れ、ス
ペイン語も上達するのです。

ここからが大変。控えめで物静かだった女性は、スペイン語をしゃべることが出来る
ようになるだけでなく、慣れなかった抱擁もこちらから飛びついてゆくようになり、
延々と続くおしゃべりにも積極的に参加するようになる。ファミリーのママやパパが
大好きになって、「また戻って来るからね」と約束して去っていきます。実際、ママ
に会いに戻ってくる若者が多いし、ついにはここで夫や職を見つけてしまう人も多い。

こうして、色々な違いを挙げたのですが、これはほんの一部であって、メキシコ人と
付き合うには、この違いを乗り越えなければなりません。ですが、多くの人がここに
戻ってきたり、私たちのように居着いてしまったりするのですから、実はメキシコと
いう国や人々は、私たちにとって、居心地が良いに違いないのです。これが結論。

私たちは、年齢的に、習慣や性格を変えるには遅過ぎるけれど、若い女性にとっては、
メキシコでの生活は、驚くことはあっても、決して不愉快ではないようです。きっと、
日本にいたから日本的習慣が身に付いただけであって、本心はメキシコ的な性格の人
が多いのかも知れません。暗い性格の人でも、メキシコに来て生活して見たら、意外
と明るい自分を発見するかもしれません。メキシコ人はまた戸惑うでしょうが…。

おまけの話: 大統領選

メキシコの大統領の任期は6年、現大統領のビセンテ・フォックスの任期はまだ2年
近く残っていて、次の選挙は2006年にあります。アメリカで大統領予備選がニュー
スになっている今、実は早くもメキシコでも次期大統領候補の話題です。

もしかしたら立候補するのではないかと話題になっているのが、現大統領夫人のマル
タさんです。以前にも大統領夫人の活躍についてトピックスで書きましたが、その時
の「まさか!」が本当になるかも知れません。本人は、つい先日のインタビューで、
「その可能性はあります」と肯定したことから、「悪い冗談に違いない」などと反対
陣営から様々な批判発言が出て、大きな論争が巻き起こっています。

イギリスの新聞にマルタ夫人が主催している慈善団体の不正資金疑惑が記事になった
り、「夫人が立候補するなら、フォックス大統領は辞任すべきだ」とか、「大統領夫人
としてではなく、離婚して一女性として出馬すべきだ」など喧々諤々。確かに、豊か
な資金力をもち、大統領官邸を根拠地に、夫を大統領にもって選挙を行えば有利に違
いない。再選禁止の国では、夫から妻に大統領の座が渡るのは、再選と同等のように
判断されても仕方がないかも知れません。いずれにしても、立候補するかも知れない
というだけでこの騒ぎ。これから暫くこのニュースでもちきりでしょう。

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バックナンバー
#1 「運転しよう」から:何でもありのメキシコ式運転
#2 「猫」から:猫の獲物はどうする?
#3 「免許証」から:ここでは買うんです
#4 「仕事をしよう」から:押し掛け助手は大活躍
#5 「仕事をしよう」から:コンサート後のご馳走
#6 「仕事をしよう」から:黒沼邸でのミニコンサート
#7 「スペイン語」から:無口な日本人
#8 「免許証から」から:車の所有税
#9 「クエルナバカ」から:蜂鳥
#10 「猫 パートII」から:捨て猫アナスタシア
#11 「猫穴」から:アメリカ・ドライブ・転々旅行
#12 「女性」から:老化現象と更年期障害
#13 猪俣猛作曲「クエルナバカの碧い空」
#14 日本へ一時帰国しました/その他
#15 運転したら事故はつきもの
#16 私たちの夏休み日記
#17 最近の感動:みんな生きている!
#18 ホームページ1周年記念
#19 仕事人「かり」
#20「葛飾諏訪太鼓」の日々
#21 クエルナバカから謹賀新年
#22 薬の話
#23 社交サロンの話
#24 夏時間、ク日比較アンケート
#25 母は強し
#26 我が家のガーデニング
#27 選挙裏話と日ク比較
#28 国際ピアノ・コンクール
#29黒沼ユリ子さん邸CASA DE VIOLIN増築祝い−ペット・ロス症候群
#30 2周年記念・シドニーオリンピック・おまけ「スキャンダル」
#31 我が家に棲みつく魑魅魍魎、おまけの話「無料電話」
#32 私達のSEXENIO、おまけの話「歌のクラス」
#33「CREA」取材のコーディネータ初仕事、おまけの話
#34「日本週間」、おまけの話「コーディネータ、プロ宣言」
#35 ニューヨークの白い空、おまけの話「夏時間」
#36 巣立ちの夏 、おまけの話「民宿 かず」
#37悲しい話、おまけ:雑誌TITLE
#38健康に自信がありますか?;おまけの話:TELECABLE INTERNET
#39  コンサート・デビュー;おまけの話:テレビ番組の取材
#40  夏休み病気特集第二弾;おまけの話:テレビ番組の放送日程
#41  我が家の独立記念日、おまけの話:アメリカ・テロ事件
#42  続編:独立記念日、おまけの話:テロ事件のメキシコの反応
#43  犬を買いませんか? おまけの話:イダルゴ州の温泉
#44  日本メキシコ学院リセオで講演;おまけの話:2001年総括
#45  謹賀新年、 おまけの話:子供達の里帰り
#46  ベラクルス珍道中: おまけの話: 月刊誌NOVARK 
#47  女性についての考察: おまけの話:日本一時帰国のお知らせ
#48  一時帰国報告: おまけの話: JAL悟空格安チケット
#49  「清流」とサッカーの話: おまけの話: かずの写真館
#50  7年半目の情緒不安定: おまけの話: 癒しのピアノ館
#51  ホーム・コンサート決行;おまけの話:帰ってきた子供達
#52  老人ホーム慰問コンサート; おまけの話:パパ訪問
#53  タマがうちにやって来た。おまけの話:慰問コンサート
#54  私の公園デビュー、おまけの話: キャデラック売ります。
#55  売れた! おまけの話:今年一番長い夜
#56  タイ旅行報告、おまけの話:クリスマス・コンサート
#57  NY息子救出作戦、おまけの話: レコーディングとラジオ番組
#58  タマ、おまけの話:ラジオ番組
#59  薬害?それともアレルギー、おまけの話:メキシコの苦悩
#60  最近読んだ2冊の本と戦争、おまけの話:リコーダー
#61  気になる最新ニュース、おまけの話:最後のミサ
#62  メキシコに住むということ、おまけの話: 日曜日も有料に!
#63  200歳、200歳 2SIGLOS おまけの話: コンサート
#64  夏休み雑感、 おまけの話: 稼ぐ!
#65  繁子さんの死、 おまけの話: 扶養家族
#66  人生の節目5周年、 おまけの話: アミーゴスの仕事
#67  私はクエルナバカ、おまけの話:かずさんは日本
#68  返品自由、 おまけの話:みんな仲良く
#69  年末・年始 雑感 − おまけの話:バイオリンの家での新年会

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