「クエルナバカの碧い空」第72号
#4 トピックス − チワワ鉄道旅行記
今回は、横田恭子さんに、チワワ鉄道旅行記をお願いしました。恭子さんは、大学の
春休みに、メキシコ・シティ在住のご両親を訪ね、ついでにクエルナバカにも来てく
れました。その際に、お話を伺ったら、これからチワワ鉄道の旅をするというのです。
私たちが今メキシコで一番旅行したいと思っているのが、このチワワ鉄道の旅。でも、
出不精になってしまったので、いつ実行できるかわかりません。そこで、恭子さんに、
旅行記をお願いしたところ、快く引き受けてくれました。

チワワ市からロス・モチスまでの間には、86のトンネルと37の橋があり、途中
には2,000mの深さの谷もあるチワワ鉄道EL FERROCARRIL CHIHUAHUA -PACIFICOの
建設は、完成するまで100年近い歳月を要したそうです。

では、恭子さんによる、ご両親とのチワワ鉄道旅行記です。

【計画】
メキシコ・シティに住む両親と3人で、チワワ太平洋鉄道に乗って「グランドキャニ
オンより雄大」との噂のコッパー・キャニオンを旅することにした。

チワワ鉄道は、海側のロス・モチスLOS MOCHISと内陸のチワワCHIHUAHUAを結ぶ全長
653kmの山岳鉄道で、メキシコに現存する唯一の鉄道であるが、メキシコ・シティ
在住の人に尋ねても「何もないところだよ」と言われるだけで、なかなか情報が得ら
れない。私達は『地球の歩き方』や個人のHP情報を頼りに、メキシコ・シティ内の
旅行会社に乗車券とホテルの手配を依頼した。今回は日程の都合上、海側から乗車し
て標高2200m地点のコッパー・キャニオン(BARRANCAS DEL COBRE銅の谷)を臨むホテ
ルに一泊して、海側に戻ってくるプランをたてた。

チワワ鉄道は、観光用の急行列車(すべて1等席)が1日1本、普通列車が1日1本通
っている。観光用の急行列車は、海側のロス・モチス、山側のチワワをそれぞれ午前
6時に出発し、順調に進めば夜9時頃に終点に到着する。いずれにしても前泊が条件
となるが、旅行会社の人の「少し出発時間が遅くて(午前7時30分)、街も魅力的」
との薦めに従って、海側のロス・モチスの次の駅、エル・フエルテEL FUERTEから乗
車することにした。エル・フエルテは、ロス・モチスから100キロくらい内陸に入っ
た街で、植民地として発展し、一時はシナロア州ESTADO DE SINALOAの州都だったこ
ともある小さな古都である。

【エル・フエルテ】
初日は、アエロ・メヒコに乗ってメキシコ・シティを朝6時30分に出発した。シティ
とロス・モチスには1時間の時差があるため、ロス・モチス空港に7時半に到着した。

1列に5席しかない小さな飛行機が到着すると、そのままタラップを降り、歩いて空港
の待合ロビーに進み、タクシーに乗り込んだ。行き先は、ロス・モチス市内のエル・
フエルテ行きバス乗り場である。降ろされたのは、とてもバス乗り場とは信じられな
いただの街角だった。唯一バスのマークらしき看板が立っているが時刻表も行先表示
もない。朝早いこともあり、人影もまばらで、植栽用の生垣に座りピーナッツを食べ
ているおじさんに「ここから、エル・フエルテ行きのバスが出るのですか?」と訊く
と、「バスは9時に来るよ」と言う。まだ50分近くあるが、信じて待つことにした。
本当にバスは来るんかいな〜?
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朝早く開店している街角のタコス屋さんや靴磨き屋さんを眺めながら、少し街を散策
すると、工場からの黒煙が目に付く。大きなオンボロ車が走っていて、アメリカの鄙
びた西海岸の町を思い起こさせる。しばらくすると、真っ黒な窓、後ろからも黒い煙
を吐いているオンボロバスが到着した。「げっ?これに乗るの?」と思いながら、運
転手に確認すると「9時に出発する。今から車内掃除をするから待っててくれ」と言
って、運転手自ら洗剤と雑巾を持って車内清掃を始めた。強烈な合成洗剤の匂いと、
陽気な歌声が聞こえてきた。まさにメキシカンな旅になりそうだ。私の気分も晴れて
きた。
やっと来ましたオンボロバスが!
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私達+5人くらいの客を乗せて、バスはエル・フエルテに向けて出発した。途中、高
速道路が工事中で、迂回して民家の無舗装道路に入った。バスの黒煙と赤土の煙が一
緒になって、なんとも迷惑な通行者であるが、ぽつぽつ点在する民家に住む人々は、
洗濯を干したりしながら、バスに向けて手を振ったりしてくれる。なんと、のんびり
した田舎だろう。川の縁ギリギリの細い道をオンボロバスは快調に飛ばしていく。迂
回路を含めて2時間30分ほどでエル・フエルテのセントロに到着した。運賃は一人
45ペソ。途中で運転手の補助員のような人が回収に来た。

エル・フエルテは、元州政府のスペイン宮殿風の建物を中心にした小さな殖民都市で
ある。一番賑わっているのは、小さな市場と商店街があるセントロだった。興味深い
のは、メキシコ・シティではあまり見かけないメキシカン・ハットをかぶってウロウ
ロしている男性が圧倒的に多いことであった。商店街にも、その専門店が多数ある。
私は、平日の昼間にボーっと町を眺めている男性を「カメ」と呼んでいるが、エル・
フエルテのカメ達は心なしか格好を付けて立っている。それが、メキシカン・ハット
のせいか、革ベルトのせいかはよくわらない。

エル・フエルテでは、ポサーダ・イダルゴという斜面を利用した中庭の美しいホテル
に泊まった。平屋建てのスペイン風の古い建物は、各部屋の天井高が6メートルくら
いの優雅な作りである。例によって、建具の建てつけは悪く、私の部屋の窓は閉まら
なかったが、バス・トイレなどは完璧で快適なホテルだった。
ポサーダ・イダルゴ
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【チワワ鉄道】
翌朝のチワワ鉄道のチケットは「エル・フエルテ駅発7時30分」と印字されていたの
で、朝7時にタクシーを依頼し、朝6時30分に朝食をとって早々に出掛けた。ホテルか
ら駅へは、無舗装道路を時速100キロくらいで飛ばして15分くらいで到着した。昨日
から乗る車すべてがボロく感じるが、これはメキシコ・シティや日本を走る車が新し
過ぎるからなのだろうと思えてきた。エル・フエルテ駅には、アメリカ人風の家族が
先着していたが、他には誰もいない。駅員もいない。トイレの清掃人に、手洗いの水
が出ないことを伝えると「8時にならないと出ない」と言う。7時30分に電車が来るは
ずなのに、どういうことだろうと不審に思ったが、気持ちのよい朝の空気と太陽と青
空と平原に囲まれた小さな駅の清清しい空気に囲まれて、のんびり待ってみることに
した。
エル・フエルテ駅に立つ恭子さん
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時間が経つとともに、太陽は高くなり、気温も上がってきて、いつの間にか駅で待つ
観光客の数が増えてきた。ツアー客も多いようで、名札を下げたアメリカ人で溢れて
きた。時刻は朝8時30分。すでに、予定時間を1時間経過していた。人々の集まり
具合から察すると、皆、電車が遅れることを承知している。結局、電車が到着したの
は8時40分頃だった。電車からスタッフが降りてきて切符をチェックして、車両番号
と座席番号を教えてくれる。客車は4両、食堂車が2両、特別車両(何なのかよくわ
からない。入れなかった)が1両の編成である。計約200人くらいが乗れる計算にな
るが、団体客に占領されて、この日は満席だった。ガイド・ブック通りに当日に切符
を購入していたのでは間に合わない。翌日の列車にする覚悟があれば別であるが、事
前予約が確実だと思う。

チワワ鉄道は、サボテンやお花の咲く高原から、徐々に険しい山道へ入りこんでいく。
車窓から
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時速50キロ程度ののんびり電車であるが、デッキに出て外の空気にあたりながら乗
っていると天国にいるような気持ちのよさである。ちょうど春で、山には、ピンク
(AMAPA)、黄色(プリマベラ)、白い花水木のような花(これもAMAPAの一種らし
い)が一面に咲いていて、言葉にならないほど美しい。
美しい景色
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他の乗客も皆beautiful!を連発していた。それ以外の言葉が思い浮かばなくなるほ
ど、頭が空っぽになる美しさだった。3時間くらい乗った地点から、花は咲かなくな
り、針葉樹と険しい岩肌の風景に変り、いつの間にか乗客は半そでから分厚い長袖に
代えていた。

【ポサーダ・バランカス駅】
この日の運行は順調で、約5時間30分で目的の駅Posada Barrancas に到着した。
チワワとロス・モチスのちょうど中間くらいの駅であるため、一つ手前の駅で上下線
が行き違う。駅を降りると、地面の真っ白な砂と凛とした空気が飛び込んできた。今
日の宿は、この駅から徒歩10分くらいのコッパー・キャニオンを臨む崖っぷちのホテ
ルPosada Barrancas Mirador である。日本の建築の法律では、このような場所に建
築物を作るのは到底不可能である。
 Posada Barrancas Mirador 
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しかし、息を飲むほどの絶景で、大渓谷を間近にした景色は圧巻であった。夜は、こ
の渓谷も静まり返り、満天の星空に無限の星が広がり、天の川がくっきりと浮かんで
いる。音と光のまったくない環境で印象に残った。

翌朝は、周囲の渓谷(バランシングロック)などを散策して、チケットには午後1時
30分と書いてあるが、やはり午後2時30分発の電車に乗った。
気持ちいい風を感じながら散策
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昨日と同じ道程であるが、夕陽を浴びた景色は色気があって美しい。しかし、マシン
の異常があったのか、途中から速度が遅くなり(時速30キロくらい)、終着駅ロス・
モチスに着いたのは午後10時30分を過ぎていた。8時間も電車に乗って、到着した
ときは、もう鉄道はうんざりだと思った。この日は、サンタ・アニタというホテルを
予約してあったので、ホテルの送迎バスが駅に迎えに来ており、100人くらいの観光
客(ほとんどアメリカ人)を乗せた。運転手に尋ねると、この程度の遅れは日常茶飯
事で、夜中の2時頃に到着することもあるという。もっとも早い時は、午後8時頃着
だそうだ。午前2時になるときは、マシンの故障や落石などが原因だそうであるが、
確かに、いつ、落石や転落事故があっても不思議ではない地形であった。無事に通り
抜けられた私はラッキーなのかもしれない。

【ロス・モチス】
最終日は、夜8時40分の飛行機を予約してあったので、午前中からのんびりロス・
モチス市内やトポロバンポ港TOPOLOBAMPOという隣町を散策した。この港は、太平洋
の湾に面していて、あらゆる魚が捕れる豊かな港である。私たちは3人で、1時間
30分くらい、ホテルの船で湾内クルーズを楽しんだが、たくさんのイルカが歓迎し
てくれた。
イルカの歓迎
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それもそのはず、対岸のバハ・カリフォルニアは、ダイビングスポットとして有名な
場所である。春の穏やかな太陽が照りつけるトポロバンポ港を後にして、メキシコ・
シティへ戻った。ちなみに、真夏のこの地は、45度にまで気温の上がる灼熱の土地
だそうである。美しい山々の景色も含めて、春がベストシーズンかもしれない。

【食事】
今回の旅行中の食事は、ほとんどタコスであったが、山の上ではおいしい牛肉を、海
のそばでは新鮮な魚料理を、トウモロコシや小麦粉のタコスに包んでいただいた。す
べてがメキシコらしく素朴で、とてもおいしかった。特に日本では、BSEなどで満
足に牛肉を食べられなかったため、塩コショウだけでソテーした柔らかい牛肉の味は
格別だった。

私はデザート・フルーツに目が無く、デザート・チェックを欠かさないが、この地域
のプリンは、練乳の濃い味がして印象的だった。フルーツは、山の上ではほとんど見
かけないが、ロス・モチスでは苺のシーズンで、トラックに積んだ大量の苺が街中を
巡っていた。私は、朝食バイキングやレストランの生ジュースとして、新鮮な苺をい
ただいた。日本で言えば、女峰のような品種で、食べ応えがあって甘くて新鮮で最高
だった。
色鮮やかな新鮮フルーツ
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大阪大学大学院 修士2年 横田恭子


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バックナンバー
#2 メキシコの住宅事情
#3 警官への賄賂
#4 音楽友の会 10周年コンサート裏話
#5 ノーチェ ブエナ物語
#5 クリスマス行事
#6 年末年始の休みとグアダラハラ家族旅行
#6 トレス レイエス
#7 ビザの種類と更新
#8 モナルカ蝶の聖域ツアー
#9 ガールスカウト奈良支部
#10 チャイコフスキーのバレー「白鳥の湖」
#11 メキシコ縦断アメリカ転々旅行
#12 メキシコの飲み物
#13 テキーラ
#14 花が咲いて実がなった(街で見る果物)
#15 アステカ・カレンダリオの謎
#16 2000年・年越し祭り
#17 9月16日 独立記念日
#18 特別ゲスト、中村さつきさん
#19 DIA DE MUERTOS 死者の日
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#21クエルナバカの年末年始
#22 メキシコ病院事情
#23 今も懐かし、街頭の物売りたち
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#25 メキシコの温泉も気持ちいい(*^o^*)
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#27 メキシコの選挙
#28 ロマンチック・アシエンダ(荘園)街道巡りの散策
#29メキシコ、愛国心のしるし
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#31メキシコ原産トウモロコシ MAIZ の秘密
#32 6年に一度の大統領就任式
#33 メキシコのピニャータ
#34 火山ポポカテペトルと山麓の世界遺産−修道院群
#35 MARCHA ZAPATISTA サパティスタの行進
#36 メキシコの飲み物 第二弾 − メキシコの伝統的な飲み物
#37メキシコの飲み物 第3弾 − メキシコのアルコール飲料
#38 QUINCENERA -XV歳の社交界デビュー・フィエスタ
#39 メキシコのお金
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#43 RUTA DE ZAPATA 革命児サパタを辿る道
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