-呑気家族のメキシコ移住計画-
出版:近代文芸社
石田 かり・著
                         「クエルナバカの碧い空」第74号
#6 本の続編 − トラケパケの小壷、 おまけの話: 春雑感
クエルナバカのカテドラルのコーラス・グループに入って、歌っていることは何度か
ここでも書いているのですが、私が参加し始めた3年近く前、2001年9月頃には、
私自身、歌が好きというだけで、経験も実力もなく、謙虚な気持ちで、どなたのお邪
魔にもならないようにと、家でも勉強、努力を心がけてきました。ところがその後、
よく観察していて認識が変わってきました。

子供たちが小学校や中学校にいる頃から気付いていたのですが、メキシコの学校では、
音楽、美術、家庭科などのクラスはほとんどありません。高校生になっても、全体の
授業時間が朝8時から午後2時くらいまでと短いせいもあって、英語や歴史、数学な
どと異なり、音楽でも美術でも歴史や楽譜などうるさいことは一切勉強せず、低学年
でみんなで楽しく歌を歌ったりお絵描きする程度のようです。

だから楽譜を読める人が殆どいません。ピアノが弾けるので、学校で音楽を教えたこ
とのある日本人の友人に聞いた話では、生徒たちが誰も音符が読めず、ドレミファも
知らなくてびっくりしたそうです。日本人には子供の頃ピアノを習った人が非常に多
いけれど、メキシコでは音楽教室も日本に比べると格段に少ないし、授業料が高いの
で、習い事をすることは一般的ではありません。

という訳で、カテドラル合唱隊CORO DE CATEDRALと仰々しい名前が付いている割に
は、楽譜が読めないだけでなく、4分音符や8分音符の長さが覚えられない人がいる
し、シャープもフラットも知らず、1オクターブも声が出ない人もいます。このメン
バーでモーツアルトやシューベルトを歌うのですから、先生も大変です。中には、暇
潰しとおしゃべりが目的で、「歌は歌えません」と堂々と公言する人までいます。

最近そういう人が増えて、そうでなくても少人数のメンバーの半数くらいは、何ヶ月
も同じ曲を練習しても、メロディーが覚えられない。だいたい楽譜を開いてもどこを
歌っているか分からず、そうなると真剣に歌っている人はイヤになって、だんだん練
習に来なくなり、歌わない人の方が歌う人よりも数が多くなるという事態に陥ってい
ます。

7月にはコンサートも控えているので、これは何とかしなくちゃ…です。(因みに、
コンサートは7月5日月曜日、午前11時から、モレーロス自治大学内の音楽堂で開
かれます。切符は無料か、有料でもすごく安いです。興味のある方は、私に直接、問
い合わせてください。)

歌を歌うことを目的として日ごろ勉強もしている人たちは、口頭で、書面で、マエス
トロMAESTROに苦情を言うのですが、マエストロも承知していながら、何ともできな
い。分かっていても、面と向かって非難することができません。みんなも、陰では言
うのですが、本人に「きちんと勉強してきて」とか、「調子が外れているよ」とか、
言えません。と、ここで登場するのが、メキシコ的なデリカシーに欠ける日本人の私
です。私はハッキリ言います。「歌が歌えないのに、どうしてコーラス・グループに
いるの?」。

ところが、みんなの前ではっきり言ってしまう私を見て、「よく言うわ」という顔を
して、誰も「そうだ、そうだ」とは言ってくれません。つまりメキシコでは、正面切
って人を非難することはいけないこと、礼儀違反なのです。反対に、「かりは日本人
だから、責任感が強すぎるのよ」と暗に非難されてしまいました。こうして、和を乱
さず、我慢するので、最終的には物事が円滑に進むこともあるし、我慢し過ぎて揉め
事が大きく発展することもあります。

こうしたトラブルの中、色んな人に愚痴を言っていたら、ある比喩を教えてもらいま
した。ちょっと非難しただけで仲違いしてしまうことを、「JARRITO DE TLAQUEPAQUE
トラケパケの小壷」と言うのだそうです。その心は、「ちょっとつついだけで割れて
しまう」。トラヶパケTLAQUEPAQUEはハリスコ州グアダラハラ市郊外の村で、世界最
大のカンティーナCANTINA食堂で有名です。私たちも行ったことがあるのですが、巨
大な中庭の周りに34軒の食堂が輪状に連なっていて、マリアッチの生演奏など聴き
ながら、飲食ができる、グアダラハラ人GUADALAJARENOSの憩いの場所です。

この村は、土器、ガラス製品、紙製品など多様な民芸品でも有名です。特に、隣村の
トナラTONALAの陶器と共に、大勢の陶工ALFAREROが集まっていて、陶器、土器が知
られています。私たちは知らなかったので、食べたり飲んだりしただけで、買わなか
ったのですが、トラケパケの壷は繊細で、割れやすいので、扱いが難しい。ちょっと
非難すると壊れてしまう友情の代名詞に使われているのです。

私はトラケパケの小壷をつついて粉々にしてしまったようです(もっとも、外国人で
メキシコ人式礼儀をわきまえない者として、許してもらっていますが…)。もともと
口が悪く、日本にいた頃から、いつもハッキリ言い過ぎて、「口は災いの元」を常々
実感していたので、メキシコでは何かにつけて新参者であると、今までは慎んで来た
ものの、最近は、よく口がスベルようになったものだ。実際、言っても感情を害する
だけで事は解決しないので、言わない方が大人であるようです。

メキシコ人は、チステCHISTE(笑い話や小話)はよくするのですが、人をからかうよ
うな冗談も言わないのが常識です。

先日も、車でマエストロの家に行った時、途中で仲間二人を乗せたのですが、到着し
たとき、垣根スレスレに駐車したので、奥に座っていたベルタが中々車から降りるこ
とができません。で、私は軽い気持ちで、「あら、ベルタ。今日はそこで一人で歌う
の?」と冗談を言いました。冗談でしょ!ところが、笑うかと思ったら、二人の顔に
驚愕の表情が…。「ERES MALA CHICAワルイ子ね!」とベルタは言い、「QUE GROSERA!
何て不作法なことを!」と、もう一人にも叱られてしまいました。

スペイン語を覚えるのは良いのですが、舌のスベリが良くなるのは良し悪し。メキシ
コでは、はっきりモノを言ういうのは下品なこと。せっかく、覚えたスペイン語です
が、使い道を間違っては何にもなりません。

おまけの話: 春雑感

春です。一年中ですが…。特にこの季節、夜中に雷雨で飛び起きることもあるくらい
強烈な雨が降り、プールの水があふれそうになったり、昼間はピーカンと晴れて、気
温も急上昇。草木が音を立ててグングン育っています。街を歩いていると、ハカラン
ダの樹からカスタネット状の種(直径5センチくらい)が、カチン、コチンと路上に
音を立てて落下して来るし、ボルダ庭園では熟れたマンゴーがボトン、ボテンと落ち
るので、常に頭上注意。そんな呑気な春に2,3の面白メキシコ人体質を発見。

その1)ボルダ庭園で絵を売っているのですが、滅多に売れないので、メキシコ人の
名前をカタカナで書くというサイド・ビジネスをしています。「カルメン」とか「ア
ルマンド」とか…。興味を持っている人が多いので、日本には3種類の文字があるこ
とを説明し、おまけとして漢字を書いた紙をプレゼントしています。家で用意した漢
字は「春」、「愛」、「青空」、「友」、「幸福」など。先日、思い付いて、新しく
「家族」を書きました。そうしたら、迷わず「家族」を選ぶ人が多い。
お客さんの宇野洋子さんがお見えになりました
(クリックで拡大)
にきび面の少年から、少女、おばさん、おじさんにいたるまで、一番人気の漢字は
「家族」。さすがメキシコ人と大いに納得。

その2)先日、絵の仲間が私に絵葉書セットをくれました。これは彼女が大昔に友人
の日本人から貰ったそうで、京都や奈良の寺などの写真の絵葉書で、わざわざ私にく
れるために、押入れから探し出して持って来てくれたのです。そばにいたメキシコ人
が、「それって、メキシコ人にアカプルコの絵葉書をプレゼントするようなものじゃ
ない?」と言っていましたが、本当、日本人が日本の(それも大昔の写真)絵葉書を
貰ってどうしましょう?

以前にも、日本文化の写真集(大昔に出版されたもので、生活といっても終戦直後の
ものらしい)や、日本の建築物という写真集、日本の指圧の本をメキシコ人から貰っ
たことがあり、どれも扱いに戸惑いながらも本棚に鎮座しています。断ることもでき
ず、大の大人のこの手の親切心を素直に喜ぶべきか、迷うところです。

その3)6月13日の日曜日の正午、サッカーの決勝戦が始まりました。UNAMメキ
シコ自治大学のPUMAS対グアダラハラのCHIVASという人気チーム同士の対戦。決勝
戦は何故か2回あり、1回目はその2日前の夜に行われ、史上最高のテレビ視聴率だ
ったそうだし、日曜日の最終決勝戦では、切符が2万ペソ(20万円くらい)で売ら
れたり(ダフ屋が大っぴらに出回っている)、大変な騒ぎでした。

最終決戦は日曜日のミサと時間が丁度重なったせいで、普段は満席で立見も多く立錐
の余地のないカテドラルが、この日ばかりはガラガラ。延長戦の末、PUMASが勝ちま
したが、試合終了後は、PUMASの勝利を喜ぶファンが繰り出して、街は大渋滞でした。
メキシコはカトリックの国。宗教は大事ですが、サッカーはもっと大事。これって、
やけに常識的。どこぞの国のように、何より宗教が優先というよりも、この方が良い。
メキシコは安心できる国と感じ入りました。

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バックナンバー
#1 「運転しよう」から:何でもありのメキシコ式運転
#2 「猫」から:猫の獲物はどうする?
#3 「免許証」から:ここでは買うんです
#4 「仕事をしよう」から:押し掛け助手は大活躍
#5 「仕事をしよう」から:コンサート後のご馳走
#6 「仕事をしよう」から:黒沼邸でのミニコンサート
#7 「スペイン語」から:無口な日本人
#8 「免許証から」から:車の所有税
#9 「クエルナバカ」から:蜂鳥
#10 「猫 パートII」から:捨て猫アナスタシア
#11 「猫穴」から:アメリカ・ドライブ・転々旅行
#12 「女性」から:老化現象と更年期障害
#13 猪俣猛作曲「クエルナバカの碧い空」
#14 日本へ一時帰国しました/その他
#15 運転したら事故はつきもの
#16 私たちの夏休み日記
#17 最近の感動:みんな生きている!
#18 ホームページ1周年記念
#19 仕事人「かり」
#20「葛飾諏訪太鼓」の日々
#21 クエルナバカから謹賀新年
#22 薬の話
#23 社交サロンの話
#24 夏時間、ク日比較アンケート
#25 母は強し
#26 我が家のガーデニング
#27 選挙裏話と日ク比較
#28 国際ピアノ・コンクール
#29黒沼ユリ子さん邸CASA DE VIOLIN増築祝い−ペット・ロス症候群
#30 2周年記念・シドニーオリンピック・おまけ「スキャンダル」
#31 我が家に棲みつく魑魅魍魎、おまけの話「無料電話」
#32 私達のSEXENIO、おまけの話「歌のクラス」
#33「CREA」取材のコーディネータ初仕事、おまけの話
#34「日本週間」、おまけの話「コーディネータ、プロ宣言」
#35 ニューヨークの白い空、おまけの話「夏時間」
#36 巣立ちの夏 、おまけの話「民宿 かず」
#37悲しい話、おまけ:雑誌TITLE
#38健康に自信がありますか?;おまけの話:TELECABLE INTERNET
#39  コンサート・デビュー;おまけの話:テレビ番組の取材
#40  夏休み病気特集第二弾;おまけの話:テレビ番組の放送日程
#41  我が家の独立記念日、おまけの話:アメリカ・テロ事件
#42  続編:独立記念日、おまけの話:テロ事件のメキシコの反応
#43  犬を買いませんか? おまけの話:イダルゴ州の温泉
#44  日本メキシコ学院リセオで講演;おまけの話:2001年総括
#45  謹賀新年、 おまけの話:子供達の里帰り
#46  ベラクルス珍道中: おまけの話: 月刊誌NOVARK 
#47  女性についての考察: おまけの話:日本一時帰国のお知らせ
#48  一時帰国報告: おまけの話: JAL悟空格安チケット
#49  「清流」とサッカーの話: おまけの話: かずの写真館
#50  7年半目の情緒不安定: おまけの話: 癒しのピアノ館
#51  ホーム・コンサート決行;おまけの話:帰ってきた子供達
#52  老人ホーム慰問コンサート; おまけの話:パパ訪問
#53  タマがうちにやって来た。おまけの話:慰問コンサート
#54  私の公園デビュー、おまけの話: キャデラック売ります。
#55  売れた! おまけの話:今年一番長い夜
#56  タイ旅行報告、おまけの話:クリスマス・コンサート
#57  NY息子救出作戦、おまけの話: レコーディングとラジオ番組
#58  タマ、おまけの話:ラジオ番組
#59  薬害?それともアレルギー、おまけの話:メキシコの苦悩
#60  最近読んだ2冊の本と戦争、おまけの話:リコーダー
#61  気になる最新ニュース、おまけの話:最後のミサ
#62  メキシコに住むということ、おまけの話: 日曜日も有料に!
#63  200歳、200歳 2SIGLOS おまけの話: コンサート
#64  夏休み雑感、 おまけの話: 稼ぐ!
#65  繁子さんの死、 おまけの話: 扶養家族
#66  人生の節目5周年、 おまけの話: アミーゴスの仕事
#67  私はクエルナバカ、おまけの話:かずさんは日本
#68  返品自由、 おまけの話:みんな仲良く
#69  年末・年始 雑感 − おまけの話:バイオリンの家での新年会
#70  スペイン語で講演; おまけの話: 大統領選
#71  シンプル・ライフ; おまけの話: ENGLISH JOURNAL 
#72  胸がドキドキ、おまけの話: 十二支の絵馬
#73  豆製品料理教室、 おまけの話: またも会計係

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